樹脂(プラスチック)の設計では、樹脂の種類が豊富で特性も多様であることから材質選定に迷う場面が少なくありません。
特に「どの特性(摺動性・強度・耐熱性・透明性・耐薬品性)を優先すべきか」「似た特性を持つ素材の違いが分かりにくい」といった悩みは、設計現場でよく見られます。
本記事では、樹脂の代表的な特性を整理し、用途に応じた考え方と、実務で使える材質の選定基準をわかりやすく解説します。
樹脂材質選定の3ステップ
樹脂選定は、次の3ステップで進めると失敗しにくくなります。
ステップ1:使用環境の把握
まず、使用温度(常用・ピーク)、荷重条件、摺動の有無、薬品・湿度、屋内外といった使用環境を整理します。
樹脂は温度・吸水・時間の影響で性質が変化しやすいため、樹脂の環境条件を把握することで、カタログ値だけでは判断できないリスクを減らせます。
ステップ2:重視すべき樹脂特性の整理
使用環境を踏まえたうえで、摺動性・強度・耐熱性・透明性・耐薬品性のうち、どの特性を最優先すべきかを整理します。
優先順位を明確にすることで、似た素材の違いや、過剰性能・不足性能の判断がしやすくなります。
ステップ3:加工実績のある業者に相談する
候補となる材質を選定できたら、該当素材の加工実績が豊富な業者に相談します。
樹脂は素材によって切削条件、歪み取り、治具設計、仕上げ精度が異なります。
試作段階で加工・工具選定・除熱方法・反り対策まで含めた助言を受けておくと、量産時の品質ばらつきや納期リスクを抑えられます。
樹脂特性を理解するための基本的な考え方
すべての特性を高いレベルで満たす樹脂はほとんど存在しません。
そのため、使用環境や用途に応じて「どの特性を優先し、どこを割り切るか」を判断する必要があります。
本記事では、設計で頻繁に判断ポイントとなる樹脂特性を5つ(摺動性、強度、耐熱性、透明性、耐薬品性)に整理し、それぞれの特性がどのような場面で重要になるのかを解説します。
樹脂の摺動性とは?特性と材質選定の考え方摺動性とは?
摩擦係数と自己潤滑性の基礎知識
樹脂の摺動性は、部品同士が接触して動くときの滑りやすさを示す特性です。
摩擦が少ないほど動きがスムーズになり、摩耗や発熱、焼き付きの発生を抑えられます。
評価では、摩擦係数の低さと自己潤滑性の有無、そして面圧と速度の積であるPV値への耐性も重要な評価指標です。
代表的な摺動性に優れる樹脂材質
MCナイロン:高荷重・耐摩耗に強い
MCナイロンは機械的強度と耐摩耗性が高く、低速・高荷重・連続運転に適しています。
金属相手でもなじみが良く、歯車・ブッシュ・ローラーなどの摺動部品に適しています。
吸水による寸法変化が起こり得るため、湿度管理やクリアランス設計が必要です。
※詳しくは、こちらの記事「MCナイロン(モノマーキャストナイロン)の加工ポイントと岸本工業の加工事例をご紹介します 」をご参照ください。

超高分子量ポリエチレン:軽負荷・低コストで摩耗に強い
超高分子量ポリエチレンは、低摩擦・耐摩耗に優れ、トラック荷台のライナー、食品搬送ラインのガイド材など、摩擦や摩耗が気になる箇所に広く使用されます。
コストと入手性のバランスが良い一方、高荷重・高温では性能低下が早まるため、面圧と温度の上限を設計段階でよく確認しておきます。
選定基準
摺動性の材質選定では、荷重・速度・温度条件を総合的に考えます。
高荷重で耐摩耗性を重視する場合はMCナイロンが適し、軽負荷でコストを重視する場合やトラック荷台のライナーでは超高分子量ポリエチレンが有力です。
いずれも、潤滑条件や相手材の表面粗さを考慮することが重要です。
樹脂の強度とは?耐衝撃性と剛性の違い
樹脂の「強度」とは?素材選びのポイント
樹脂の性能を語る上で欠かせない「強度」という言葉ですが、大きく分けて「衝撃に耐える強さ(耐衝撃性)」と「変形しにくい強さ(剛性)」の二面で評価します。
両者の違いを把握しないと、用途に合わない素材選定による破損や不具合につながります。
代表的な高強度の樹脂材料
ポリカーボネート:衝撃に強い透明樹脂
「衝撃への強さ(耐衝撃性)」を重視する場合に代表される素材がポリカーボネートです。
ポリカーボネートは非常に高い耐衝撃性を持ち、万が一大きな力が加わっても割れにくいのが最大の特徴です。
そのため、安全カバーや防護パネルなど、割れることによる危険を回避したい用途に最適です。

ユニレート:変形しにくい高剛性・寸法安定
「変形しにくい強さ(剛性)」を求める場合に適しているのがユニレートです。
ユニレートは高い剛性と寸法安定性を備えており、高荷重下でも変形しにくく、寸法安定性に優れています。
精密治具のベースや構造プレートなど、形状保持が重要な部位で真価を発揮します。
選定基準
不意の衝突から守る安全設計ではポリカーボネートが適しており、割れのリスクを低く抑えられます。
一方、寸法精度を維持し、変形を避けたい治具や構造部ではユニレートが有力です。
一言で「強度」と言っても、求めるのが「割れない強さ」なのか「曲がらない強さ」なのかを明確にすることが、最適な素材選びの近道となります。
樹脂の耐熱性とは?使用温度で見る特性比較
耐熱性は何を見るべきか
樹脂の耐熱性とは、高温環境で素材が変形や劣化を起こしにくい特性です。
電気機器や自動車部品など、発熱を伴う環境では特に重要です。
耐熱性に優れる代表的な樹脂材料
PEEK:高温・高荷重でも性能を維持
PEEKは高温下でも強度・寸法安定性を維持し、摺動・構造の両面で信頼性が高い高機能樹脂です。
航空・自動車・医療の苛酷環境で実績があり、金属代替の選択肢にもなります。
コストは高めですが、寿命・信頼性で総合メリットを期待できます。
テフロン:耐熱・耐薬品は最上位
テフロンは耐熱・耐薬品性が非常に高く、シール材・ライニング・絶縁部品に適しています。
一方で機械的強度・剛性は低く、構造材には不向きです。
寸法保持が必要な場合は形状・支持方法を工夫します。

選定基準
高温かつ荷重が大きい場合はPEEKが適し、形状保持と耐久性を確保できます。
一方、強薬品環境で非構造部品を扱う場合はテフロンが有力です。
どちらも熱膨張を考慮したクリアランス設計が必要です。
※詳しくは、こちらの記事「プラスチックの耐熱性。熱に強い樹脂13選」をご参照ください。
樹脂の透明性とは?光学特性と用途別の注意点
透明性とは?光学特性と耐傷性
樹脂の透明性は光透過率・黄変・表面品質で評価します。
外観部品では傷つきやすさが機能に直結することがあるため、コーティングや保護フィルムなどの対策を検討します。
透明性に優れる代表的な樹脂材料
アクリル:高い透明度・美観重視
アクリルは光学透明度が非常に高く、美観を出しやすい素材です。
耐衝撃性は、ポリカーボネートに劣るため、外力が小さい外観部品や表示窓に適しています。
温度上昇で応力割れが起きやすい点は注意が必要です。

ポリカーボネート:透明性と耐衝撃性
ポリカーボネートは、透明性と耐衝撃性の両立が特徴で、安全部材・保護カバーに適しています。
傷つきやすさへの対策として、ハードコート処理や保護フィルムの併用が有効です。
選定基準
美観を最優先する場合はアクリルが適し、展示パネルや表示窓に向いてます。
衝撃に耐える必要がある場合はポリカーボネートが有力です。
どちらも応力割れや傷防止のため、設計と表面処理に注意する必要があります。
※詳しくは、こちらの記事「樹脂とアクリルの違いを分かりやすく解説!特性や加工方法などもあわせてまとめています」をご参照ください。
樹脂の耐薬品性とは?劣化リスクと素材特性
耐薬品性の基礎知識:薬品の種類と素材劣化の関係
耐薬品性は、酸・アルカリ・溶剤などの薬品に触れたときに、強度・寸法・外観などの物性がどれだけ変化しにくいかを示す指標です。
樹脂は、薬品接触に加えて高温・荷重・長時間使用などの条件が重なると更に劣化が進みやすくなります。
そのため、使用条件を再現した浸漬試験で確認するのが確実です。
耐薬品性に優れる代表的な樹脂材質
PEEK:耐薬品・耐熱の高バランス
PEEKは多くの薬品に安定で、さらに高温下でも物性を維持します。
化学プラント周辺、滅菌工程のある医療機器などで有力候補です。
コストは高めですが、寿命・清浄性の面で優位となります。
※詳しくは、こちらの記事「PEEKの加工精度について解説。岸本工業の精密加工や製作事例をご紹介します。 」をご参照ください。

ポリプロピレン:コストを抑えて耐薬品性を確保する場合
ポリプロピレンは、多くの薬品に対して安定で、タンク・配管・治具などに広く用いられます。
吸水が少なく軽量で扱いやすい一方、高温・高荷重には向かないため、温度条件を十分に検討する必要があります。
選定基準
薬品の強度が高く、温度も上がる環境ではPEEKが適し、長期耐用が期待できます。
室温で一般薬品を扱う場合やコスト重視の用途ではポリプロピレンが有力です。
どちらも浸漬試験とシール材との適合確認が必要です。
樹脂材質選定で失敗しないために
樹脂特性のまとめ

材質選定で失敗しないための最終チェックリスト
- 優先順位:最も重視する特性を整理する
- 環境条件:温度・荷重・薬品などを正確に把握する
- 専門家相談:加工実績のある業者に早めに相談する
樹脂の材質選定・加工のご相談は岸本工業まで
樹脂の材質選定や加工でお困りごとはありませんか。
岸本工業では、用途に合った素材提案から高品質な樹脂切削加工まで、一貫してサポートします。
「最適な樹脂が分からない」
「精度や仕上がりに不安がある」
「少量から相談したい」
といったご要望にも柔軟に対応します。
図面段階はもちろん、イメージ段階でのご相談も歓迎です。
お気軽にお問い合せください。
【お問い合わせ先】
電話 03-5703-8171
FAX 03-5703-8173
お問合せフォーム







